退職準備を進める中で、地味だけど見落とすと数百万円単位で損をしかねないのが企業型DC(企業型確定拠出年金)の移換先選びです。
以前の記事(退職後の社会保険、どれが一番得?)では社会保険の選択について書きましたが、今回は確定拠出年金(DC)の受け取り方・移換先について、自分のケースで比較計算してみた結果をまとめます。
⚠️ ご注意
DCの制度・税制は個人の年齢、加入期間、勤務先の制度によって異なります。本記事の金額・判断はあくまで筆者個人のケースの一例です。実際の判断にあたっては必ず運営管理機関や税理士・社会保険労務士に確認してください。
【目次】
- 私の企業型DCの現状
- 60歳前は「一時金で今すぐ受け取る」ことができない
- 移換先の2つの選択肢
- 最大のポイント:退職所得控除は「拠出を続けた年数」で決まる
- 2026年の税制改正にも要注意
- 比較表と私の結論
- まとめ
私の企業型DCの現状
現在、会社の企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入しており、資産残高は2,445万円になっています。
加入期間は現在14年2か月。4か月後に退職する予定なので、退職時点では14年6か月の加入期間ということになります。
すでに自分の資産管理法人を持っているため、「その法人で企業型DCを継続する」というやや変わった選択肢も検討できる立場にあります。今回はこれを軸に、どの移換先が最も有利かを整理してみました。
60歳前は「一時金で今すぐ受け取る」ことができない
まず大前提として知っておくべきことがあります。DC(確定拠出年金)は原則60歳になるまで受け取ることができません。
例外的に「脱退一時金」として早期受け取りができるケースもありますが、その条件は非常に限定的です。
- 資産残高が1万5,000円以下であること
- 企業型DC・iDeCoいずれの加入者・運用指図者でもないこと
- 資格喪失日の翌月から6か月以内であること
私のケースでは資産残高が2,445万円もあるため、当然この条件には当てはまりません。つまり、「退職時に一時金として受け取る」という選択肢は、そもそも存在しないということになります。退職時にできるのは、資産をどこかに「移換」することだけです。
移換先の2つの選択肢
60歳前に企業型DCの加入資格を失った場合、主な移換先は以下の2つです。
①iDeCo(個人型確定拠出年金)へ移換
最も一般的な選択肢です。手続きが比較的シンプルで、個人として運用を継続できます。ただし、拠出を続ける場合の上限額は、現時点(2026年6月)では企業年金のない会社員等で月額23,000円です(2026年12月の制度改正により2027年1月以降は月額62,000円に拡大される予定です)。
②自分の資産管理法人で企業型DCを新設し、移換する
一人社長(代表者一人だけの法人)であっても、厚生年金の被保険者であれば企業型DCを新規に設立し、加入することが可能です。この場合、
- 拠出上限は月額55,000円(iDeCoの現行上限の倍以上)
- 拠出額は法人の経費として処理できる(個人の所得にも社会保険料の計算にも影響しない)
- 以前の記事で検討した「法人から給与をもらい社会保険に加入する」という方針とも相性がよい
設立には一定の手間とコスト(規約整備や運営管理機関との契約など)がかかりますが、資産管理法人をすでに持っている私にとっては、ハードルはそれほど高くありません。
最大のポイント:退職所得控除は「拠出を続けた年数」で決まる
ここが今回調べていて最も重要だと感じた点です。
DCを将来一時金で受け取る際には「退職所得控除」が使えますが、その計算に使われる勤続年数は「実際に掛金を拠出していた期間(加入者期間)」のみです。資産を移換してそのまま保有するだけの「運用指図者期間」は、退職所得控除の年数にはカウントされません。
📌 退職所得控除の計算式
勤続年数20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
勤続年数20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
私のケースで計算してみます。14年6か月の加入期間は、1年未満を切り上げて15年として扱われます。
40万円 × 15年 = 600万円(現時点で確保している退職所得控除額)
もしここで拠出を止めて、ただ資産を保有するだけ(運用指図者)にしてしまうと、60歳になって実際に受け取るときも退職所得控除は600万円のままです。一方で、移換先(iDeCoでも自分の企業型DCでも)で拠出を継続すれば、その期間も加入者期間としてカウントされ続けます。
仮に46歳の今から60歳まで14年間拠出を継続したとすると、通算の加入期間は約29年に達し、退職所得控除は次のように変わります。
800万円 + 70万円 ×(29年 − 20年)= 1,430万円
600万円→1,430万円。実に830万円もの差が生まれます。これは「移換してそのまま放置する」か「拠出を継続する」かだけで決まる差です。退職時に一番やってはいけないのは、移換してそのまま何もしないことだと痛感しました。
2026年の税制改正にも要注意
もう一点、将来に向けて押さえておきたいのが2026年1月から適用される退職所得控除の調整ルールの改正です。
これまでDCの一時金を先に受け取り、その後で会社の退職金を受け取る場合、5年以上間隔を空ければ両方にフルで退職所得控除を使うことができました。これが2026年1月以降は10年に延長されます(逆に、退職金を先に受け取ってからDCを受け取る場合の間隔は19年のまま変更されていません)。
私の場合、将来的に自分の法人から代表者として退職金(役員退職金)を受け取る可能性もあります。DCの受け取りと法人からの退職金受け取りの順序とタイミングを考えておかないと、せっかくの控除を使い切れない可能性があります。これは60歳が近づいてきたタイミングで改めてシミュレーションしようと思っています。
比較表と私の結論
| 選択肢 | 拠出上限(月額) | 拠出の出どころ | 退職所得控除への影響 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| iDeCoへ移換し拠出継続 | 2.3万円(〜2026年12月) 6.2万円(2027年1月以降) | 個人(小規模企業共済等掛金控除の対象) | 加入者期間としてカウントされ続ける | 手続きが簡単。手数料は個人負担 |
| iDeCoへ移換し拠出せず放置 | ― | ― | カウントされない(停止) | 一番もったいない選択 |
| 自分の法人で企業型DCを新設 | 5.5万円 | 法人(全額経費) | 加入者期間としてカウントされ続ける | 設立に手間・コストがかかるが税効率は最も高い |
この比較から、私のケースでは「自分の資産管理法人で企業型DCを新設し、そこに移換して拠出を継続する」方法が最も有利だと判断しました。
理由は3つです。
- 拠出上限がiDeCoの現行水準(月2.3万円)より高い(月5.5万円)
- 拠出額が法人の経費になるため、個人の所得税・社会保険料の負担が増えない
- すでに「法人から給与をもらい社会保険に加入する」方針と組み合わせやすい
2027年1月以降はiDeCoの上限も6.2万円に上がるため、その時点で改めてiDeCoとの比較は必要になりそうですが、当面は法人での企業型DC継続を軸に進めていく予定です。
まとめ
今回の調査でわかった一番大事なポイントは、「移換すること」自体がゴールではなく、その後「拠出を続けるかどうか」が退職所得控除の金額を大きく左右するということです。
- 60歳前は一時金として今すぐ受け取ることはできない(脱退一時金の条件は極めて限定的)
- 移換先はiDeCoか、条件が合えば自分の法人での企業型DC新設
- 退職所得控除の年数は「拠出を続けた期間」のみが対象。放置すると差が数百万円規模になる
- 2026年からの税制改正で、DCと退職金の受け取り順序・間隔の重要性が増す
退職金やDCの制度は複雑ですが、知っているかどうかで数百万円単位の差が生まれます。これから退職を考えている方は、ぜひ自分の加入期間・残高で一度シミュレーションしてみてください。
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※本記事の情報は2026年6月時点の制度に基づく筆者個人のケースです。確定拠出年金・退職所得控除の制度や金額は個人の状況・制度改正により異なります。実際の手続き・判断にあたっては、運営管理機関、年金事務所、税理士・社会保険労務士等の専門家に必ずご確認ください。

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