今後、タイで働く可能性が出てきた。
以前、日本のメーカーでタイの製造拠点に勤務した経験はある。ただ、そのときは会社が税務周りをすべて処理してくれていたので、自分で税金を考える必要がなかった。今度は退職後に再びタイで働くかもしれないという話で、状況がまったく違う。
「タイで働けば、税金はタイだけに払えばいいのか」「日本の口座に振り込まれた給与は日本で課税されるのか」「タイには住民税があるのか」「日本の住民税はいつまで払い続けるのか」——こういった疑問が次々と浮かんできた。
調べてみると、ひとくちに「タイで働く」といっても、何日滞在するか、どこで実際に仕事をするか、給与をどこの法人が負担するか、によって課税の考え方がかなり変わることが分かった。この記事は、その調査の記録だ。税務の専門家ではないので、制度の全体像と確認すべきポイントを整理することを目的にしている。
⚠️ 税制は改正されることがあります。この記事の情報は執筆時点のものです。実際にタイで働く・移住する・送金する場合は、国際税務に詳しい税理士に個別に相談してください。
【目次】
- 最初に結論:変わるのは「勤務地」「居住者判定」「働き方」
- タイで働いた給与には、原則としてタイの所得税が関係する
- タイの居住者判定と180日基準
- タイの個人所得税率
- タイに住民税はあるのか
- 日本の所得税はどうなるか
- 日本の住民税はいつまで払うか
- 180日ルールと183日ルール——混同しやすい2つの制度
- 働き方別の比較
- 日本に不動産・金融資産・法人がある場合の注意点
- タイで働く前に確認したいこと
- まとめ
最初に結論:変わるのは「勤務地」「居住者判定」「働き方」

調べてみて最初に気づいたのは、「タイで働く=タイだけで課税される」という単純な話ではないということだ。
大きな軸は3つある。①実際にどこで仕事をしたか(勤務地)、②タイ・日本それぞれの税務上の居住者かどうか(居住者判定)、③どういう立場で働くか(雇用形態や給与負担者)。これらが組み合わさって、最終的な課税のあり方が決まる。
給与の振込先がどこかは、課税国を決める主な要素ではない。日本の口座に振り込まれていても、タイで行った仕事に対応する部分はタイで課税される可能性がある。逆に、タイの口座に振り込まれていても、日本国内での勤務に対応する部分は日本側に課税権が残る場合がある。
ここを誤解したまま動くと、確定申告で問題が起きる可能性があるので、まず頭に入れておきたい。
タイで働いた給与には、原則としてタイの所得税が関係する
タイの所得税制度では、タイ国内で行った勤務から生じた給与は、原則としてタイ源泉所得として扱われる。つまり、タイで実際に働いた期間に対応する給与は、給与の支払先や振込先の国とは関係なく、タイで課税の対象になり得る。
日本本社に雇用されたまま、日本の銀行口座に給与が振り込まれていたとしても、タイ国内での勤務に対応する部分はタイで課税される可能性がある。「日本の会社から日本の口座に振り込まれているから日本だけで課税される」という理解は、この点で誤りになりやすい。
ただし、後述する183日ルール(租税条約)の要件を満たす場合には、タイでの課税が免除される場合がある。要件を満たすかどうかは、滞在日数だけでなく、給与を誰が負担しているかなど複数の条件がある。
タイの居住者判定と180日基準
タイの税務上の居住者かどうかは、暦年(1月1日から12月31日)中のタイ国内の滞在日数で判断される。180日以上タイに滞在した場合、タイの税務上の居住者(tax resident)と判断される可能性が高い。
居住者と非居住者では、課税対象となる所得の範囲が変わる。タイの居住者は、タイ国内源泉所得に加え、国外から送金した所得が課税対象になる場合がある。非居住者はタイ国内源泉所得のみが原則として課税対象だ。
注意が必要なのは、180日未満だからといって、タイ国内で行った勤務の給与が自動的に非課税になるわけではないという点だ。180日の基準はタイ国内法上の居住者判定の目安であり、タイ国内勤務の給与に対する課税可否は別の判断になる。
タイの個人所得税率
タイの個人所得税(Personal Income Tax)は累進税率で、現行は以下の区分となっている。タイ歳入局(Revenue Department)の公式情報および複数の専門機関の確認では、2025年時点で以下の税率が適用されている。
| 課税所得(バーツ) | 税率 |
|---|---|
| 〜150,000バーツ | 0% |
| 150,001〜300,000バーツ | 5% |
| 300,001〜500,000バーツ | 10% |
| 500,001〜750,000バーツ | 15% |
| 750,001〜1,000,000バーツ | 20% |
| 1,000,001〜2,000,000バーツ | 25% |
| 2,000,001〜4,000,000バーツ | 30% |
| 4,000,001バーツ〜 | 35% |
出典:タイ歳入局(Revenue Department)。最新の税率は公式サイトでご確認ください。
この税率は「給与総額」にそのまま掛けるわけではない。タイの所得税計算では、給与収入に対して一定の経費控除(収入の50%、上限10万バーツ)や、個人控除・配偶者控除・保険料控除などが適用され、課税所得を算出してから税率を掛ける仕組みだ。控除の金額や上限は改正されることがあるため、現時点での具体的な控除額は公式資料または税理士に確認することをすすめる。
また、2025年3月にタイ政府が発表した王令第793号(B.E. 2568)では、特定産業に復帰するタイ人専門家向けの17%フラット税率が導入されたとの情報もあるが、この特例は対象者が限定されており、一般的な日本人駐在員や現地採用者には適用されないと理解している。
タイに住民税はあるのか

タイには、日本の都道府県民税や市町村民税のような一般的な個人住民税は、基本的に存在しない。所得に対する地方税の上乗せが日本ほど体系化されていないため、「住民税がない」という表現は大まかには正しい。
ただし、だからといって所得税以外のコストがゼロかというと、そうではない。
タイの法定雇用関係で働く場合、社会保障基金(Social Security Fund:SSF)への加入が原則として義務付けられている。外国人労働者も、ワークパーミットを取得して雇用されている場合はタイ人と同様に加入対象となる。保険料の自己負担分は、標準的には月給の5%(上限月額750バーツ、2025年12月末まで)だ。2026年以降は段階的に上限が引き上げられる予定との情報もある。
また、勤務先の規模や方針によっては、プロビデントファンド(退職積立基金)への拠出が求められる場合もある。「タイに住民税がないから給与から引かれるものが少ない」という発想は、社会保障関係の負担を見落とす可能性がある。
日本の所得税はどうなるか
日本の所得税における「居住者」か「非居住者」かは、住民票の有無だけでは決まらない。生活の拠点(生活の本拠)がどこにあるかによって判断される。
一般的に、当初から1年以上の海外勤務を予定して出国する場合は、日本の税務上の非居住者として扱われることが多い。日本の居住者は原則として全世界の所得が課税対象になるが、非居住者は原則として日本国内源泉所得のみが課税対象になる。
タイで働いた給与(タイ国内で行った勤務に対応する部分)は、日本の非居住者であれば原則として日本の所得税の対象外となり得る。ただし、日本法人の役員としての報酬は扱いが異なる点があり、後述する。
また、賞与の取り扱いも確認が必要だ。タイ赴任前の日本勤務期間に対応する部分が含まれる賞与が、タイ赴任後に支払われる場合、その日本勤務期間分は日本での課税対象になる可能性がある。
個別の状況によって結論が変わるため、「非居住者だから日本の所得税は関係ない」と一律に判断するのは危険だと感じた。
日本の住民税はいつまで払うか
日本の住民税は、毎年1月1日時点にどの市区町村に住所があるかを基準に課税される。ポイントは「前年の所得」に対して「翌年度に課税される」という仕組みだ。
時系列で考えると分かりやすい。たとえば、2025年6月にタイへ転居し、市区町村に海外転出届を提出したとする。2025年1月1日時点では日本に住所があったので、2025年度の住民税(前年2024年の所得に基づく)は課税される。次の2026年度の住民税については、2026年1月1日時点にタイに居住していれば、日本の住民税は原則として課税されない。
ただし、海外転出届を提出さえすれば住民税が自動的にゼロになるかというと、そう単純ではない。出国の期間や目的、出国中の居住の実態から「実際には国内に生活の本拠がある」と判断されれば、出国中でも住所があるとみなされる場合がある。観光や一時的な滞在とは異なり、1年以上の勤務目的での出国であれば、通常は非居住者として扱われることが多いが、個別の事情によるため確認が必要だ。
「年末に海外転出届を出せば翌年度の住民税は必ず免除される」という話を見かけることがあるが、断定的に言えるものではないと理解している。
180日ルールと183日ルール——混同しやすい2つの制度
この2つは似ているようで、根拠も目的も異なる制度だ。
180日基準(タイ国内法)は、タイの税務上の居住者かどうかを判断するための基準だ。暦年中のタイ滞在日数が180日以上であれば居住者とみなされる可能性が高い。これはタイの国内法(歳入法典)に基づくルールで、日本側の制度とは独立している。
183日ルール(日タイ租税条約)は、タイに短期滞在した人がタイで給与課税を免除される要件のひとつだ。日本とタイの間に締結された租税条約(昭和40年条約)に基づき、一定の条件をすべて満たす場合に適用される。その条件は以下の3つで、すべてを満たす必要がある。
- 課税年度において12ヶ月以内のいずれの期間においても、タイ国内の滞在合計が183日を超えないこと
- 報酬を支払う雇用者が、タイ居住者でないこと(日本の会社が支払者である場合など)
- 報酬がタイ側の恒久的施設(PE)によって負担されていないこと
3つ目の条件が見落とされやすい。たとえば、滞在が183日未満であっても、タイの現地法人が給与を実質的に負担しているとみなされれば、この免除は適用されない。183日という日数だけを見て判断するのは危険だ。
また、タイ国内法の180日とJTCC(日タイ租税条約)の183日は日数が異なる。183日未満の滞在でも、タイ国内法上の居住者にはならないが、タイ国内勤務分の給与について課税される可能性は残る。両方の基準をそれぞれ確認する必要がある。
働き方別の比較
同じ「タイで働く」でも、立場や雇用形態によって課税の考え方は変わる。以下はあくまで一般的な傾向の整理で、個別の状況によって異なる点がある。
| 働き方 | タイの所得税 | 日本の所得税 | 日本の住民税 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| タイ現地法人に現地採用 | 一般的には対象。タイ源泉給与として課税される可能性が高い | 日本の非居住者であれば、タイ勤務給与は原則対象外 | 1月1日に日本の住所がなければ翌年度から原則非課税 | 日本の所得(不動産収入など)がある場合は日本での申告が残ることがある |
| 日本企業からタイへ駐在 | タイ滞在・勤務日数に応じて課税対象になり得る。183日ルールの要件確認が必要 | 日本勤務対応分(例:日本出張期間・日本勤務対応賞与)は日本課税の可能性 | 1年以上の出向予定で転出届を提出し、実態が伴えば非課税になることが多い | 給与の日本側・タイ側それぞれの負担割合の確認が必要 |
| 日本社員として短期出張 | 183日ルールの3条件を満たせばタイ非課税の可能性あり。条件の確認が必要 | 日本居住者のまま。タイ出張期間も含め全世界所得が日本で課税対象 | 日本に住所があるため継続して課税 | 出張日数・給与負担者・タイ拠点との関係に注意 |
| 日本法人の役員としてタイで活動 | タイ国内での活動に対応する部分はタイ課税対象になり得る | 日本法人からの役員報酬は非居住者でも20.42%の源泉徴収対象となる場合がある | 日本の住所の有無で判断 | 一般従業員と役員では課税の考え方が異なる。日本法人役員報酬の取り扱いは個別確認が必須 |
※上記は一般的な傾向の整理です。条件によって結論が異なります。個別の判断は税理士に相談してください。
日本に不動産・金融資産・法人がある場合の注意点
私自身の話をすると、タイで受け取る給与だけを考えれば済む状況ではない。日本に不動産があり、金融資産もある。その観点で調べたことを整理しておく。
日本の不動産所得
日本の不動産から生じる所得は、日本国内源泉所得になる。日本の非居住者であっても、日本国内の不動産から得た賃料収入については日本での申告・納税が必要だ。この部分はタイでの勤務状況に関係なく継続して発生する。
金融資産からの所得とタイの2024年改正
2024年1月1日以降、タイの税務上の居住者が国外で得た所得をタイに送金した場合、送金した年の課税対象になるとの運用が始まっている。これは、日本の株式配当・不動産売却益・預金利息などをタイに送金した場合にも関係し得る。
それ以前は「所得を得た翌年以降に送金すれば非課税」という運用があったとされるが、2024年以降はその扱いが変わった。ただし、2026年時点での最新情報では、タイ歳入局が「所得を得た年またはその翌年中にタイへ送金した場合は免税とする」法令の草案を準備しているとの報道もある。この点は制度が動いている部分のため、送金を検討する場合は必ず最新の情報を確認してほしい。
日タイ間で両国から課税された場合、日本の外国税額控除やタイ側の外国税額控除の仕組みを使って二重課税を調整できる可能性があるが、租税条約の対象所得かどうかによっても変わる。
国外転出時課税(出国税)
日本を出国する際、一定の要件を満たす人は「国外転出時課税」(いわゆる出国税)の対象になる場合がある。
対象となる主な要件は、①出国時点で所有している有価証券等(株式・投資信託・デリバティブなど)の価額合計が1億円以上あること、②出国日前10年以内に日本に5年超住んでいたこと、の2つが基本だ。不動産そのものは対象外で、あくまで有価証券等が対象となる制度だ。
出国時点の含み益に課税されるという点が特徴で、実際に売却していなくても申告が必要になる場合がある(納税猶予の制度はある)。有価証券を相応に保有している人は、出国前に税理士に確認することをすすめる。
日本法人との関係
もし日本法人の役員として報酬を受け取り続ける場合、日本の非居住者でも役員報酬に対して20.42%の源泉徴収が行われることがある(租税条約で軽減される場合もある)。また、タイ側でも活動に対応する報酬が課税対象になり得るため、両国の申告関係を整理する必要が出てくる。
調べてみて分かったのは、「どう働くか」だけでなく「日本に何を残すか」も同時に考える必要があるということだ。自分のケースでは、不動産・金融資産・法人との関係をひとつひとつ確認しないと、動いた後で問題が起きる可能性がある。この部分は自分だけで判断せず、国際税務の専門家に相談しようと思っている。
タイで働く前に確認したいこと
📋 チェックリスト
- タイでの年間滞在予定日数(180日・183日を超えるか)
- 実際に勤務する場所(タイ国内か、日本か、複数国か)
- 雇用主と、給与を実質的に負担する法人の所在国
- 給与のうち日本勤務期間に対応する部分の有無(賞与含む)
- 日本法人の役員かどうか(一般従業員と課税の考え方が異なる)
- 日本の税務上の居住者・非居住者の判定(1年以上の出国予定か)
- 1月1日時点の日本の住所(住民税課税の基準日)
- 日本の不動産所得・金融所得の有無と申告の継続要否
- タイへ送金する国外源泉所得の有無(2024年改正の影響)
- 国外転出時課税の対象可能性(有価証券等の合計が1億円以上か)
- 日本・タイ両国で必要な申告の内容と期限
- 外国税額控除の適用に必要な書類(納税証明書など)の準備
まとめ
タイで働く場合の税金は、最初に想像していたより複雑だった。「タイで働く=タイだけで課税される」とはならず、勤務地・居住者判定・働き方・給与の負担者などが組み合わさって課税のあり方が決まる。
ただ、複雑だからタイで働くことをあきらめるということではない。事前に整理すべき項目が分かれば、それを確認してから動けばいい。今回調べてみて、自分が確認すべき論点はかなり明確になった。
私自身はまだ、タイ現地採用なのか、日本企業との関係を残した形なのか、事業者として動くのかを決めていない。ただ、働き方が変わるだけで税金の整理が大きく変わることは分かった。選択肢を持つためには、決める前に制度を知っておくことが必要だと思う。
今後もタイで働くことや暮らすことについて、自分が調べたことや実際に確認したことをこのブログに記録していく。
参照した公式情報
- タイ歳入局(Revenue Department)個人所得税ページ:https://www.rd.go.th/english/(確認:2025年)
- 日本・タイ租税条約(財務省掲載):財務省 日タイ租税条約PDF
- 国税庁「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例(No.1478)」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1478.htm
- 国税庁「国外転出時課税制度」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kokugai/01.htm
- 江戸川区「1月1日現在、海外へ出国中の場合の住民税の取り扱い」(自治体の住民税説明例):江戸川区公式サイト
- PWCタイ「Thai Tax Booklet 2024/25(日本語版)」:PwCタイ税務小冊子PDF(補助参照)
- HLB Thailand「Q&A ON THE TAXATION OF FOREIGN INCOME(2024年1月)」:HLB Thailand PDF(補助参照)
- タイ歳入局 外国所得2024年改正に関する公式Q&A:タイ歳入局公式サイト(確認:2025年)
📌 あわせて読みたい
【免責事項】この記事は、私自身がタイで働く可能性を考え、公開情報をもとに調べた内容をまとめたものです。税務上の居住者判定や所得区分は、滞在日数、家族の状況、住居の形態、雇用契約の内容、給与負担者、保有資産の状況などによって異なります。また、税制や税務当局の運用は変更される可能性があります。実際にタイで働く、移住する、給与を受け取る、国外所得をタイへ送金するなどを検討・実施する場合は、日本とタイの国際税務に詳しい税理士または専門家に個別に相談してください。本記事の情報を利用した結果について、筆者は責任を負いかねます。


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