タイ移住を考えるとき、税金について調べ始める人は多い。
「タイには相続税がほとんどない」「日本を出れば相続税から逃げられる」——そんな情報が、ネット上に溢れている。
でも、そこには大きな誤解が潜んでいる。
私自身、将来のタイ長期移住を計画するなかで、税金についてもしっかり調べてきた。相続税についても例外ではない。調べれば調べるほど、「思っていたより複雑だ」と感じた。
この記事では、タイの相続税制度の概要から、日本との比較、そして「移住しただけでは日本の相続税はなくならない」という最重要ポイントまで、できるだけわかりやすく解説したい。
タイへの移住を考えている方、資産形成をしながら海外移住を視野に入れている方に、ぜひ読んでほしい。
⚠️ はじめに
本記事は一般的な情報提供を目的としています。税制は改正されることがあり、個人の状況によって適用が異なります。具体的な判断は、必ず国際税務に詳しい税理士・専門家にご相談ください。
【目次】
- タイにも相続税はある——導入の背景と概要
- タイの相続税率——想像より低いが、ゼロではない
- 日本とタイの相続税、何が違うのか
- 【最重要】タイへ移住しただけでは日本の相続税は消えない
- タイ移住を考える人が確認すべきポイント
- 私がタイ移住を考えている理由——相続税だけが目的ではない
- まとめ——移住は相続税だけで決めるものではない
タイにも相続税はある——導入の背景と概要

「タイには相続税がない」というのは、過去の話だ。
タイは長らく相続税のない国として知られていたが、2016年2月1日に相続税法が施行され、制度が導入された。背景には、タイ国内の経済格差拡大への対応と、富裕層の資産集中を緩和するための政策的な意図があったとされている。
ただし、導入された相続税は日本と比べると非常に緩やかな設計になっている。
まず大きな特徴として、課税されるのは相続財産が一定額を超えた場合のみという点がある。また、税率も日本と比べると大幅に低い。さらに配偶者は完全に非課税とされている。
「タイの相続税は安い」という評価はある意味正しいのだが、「ない」は正確ではない。この違いを理解しておくことが、まず第一歩だ。
タイの相続税率——想像より低いが、ゼロではない
タイの相続税は、相続財産が1億タイバーツ(約4億〜5億円、為替により変動)を超える部分に対して課税される。1億バーツ以下は非課税だ。
| 相続人の区分 | 課税対象 | 税率 |
|---|---|---|
| 直系親族(子・孫・親)・兄弟姉妹 | 1億バーツ超の部分 | 5% |
| それ以外の相続人(甥・姪・第三者など) | 1億バーツ超の部分 | 10% |
| 配偶者 | — | 非課税(全額免除) |
1億バーツは現在のレートでおおよそ4億〜5億円に相当する。これを超えた資産を持つ富裕層でなければ、そもそもタイの相続税は発生しない計算になる。
また、タイの相続税は原則としてタイ国内にある資産のみが対象となる(一般的な解釈として。詳細は専門家に確認を)。
日本とタイの相続税、何が違うのか
両国の相続税制度を比べると、その差が明確になる。
| 項目 | 日本 | タイ |
|---|---|---|
| 最高税率 | 55% | 10%(直系は5%) |
| 基礎控除 | 3,000万円+(600万円×法定相続人数) | 1億バーツ超の部分のみ課税(事実上の非課税枠が大きい) |
| 課税対象資産 | 全世界の財産(要件による) | 原則タイ国内の財産 |
| 配偶者 | 配偶者控除あり(最大1億6,000万円または法定相続分まで非課税) | 全額非課税 |
| 税率の構造 | 累進課税(10%〜55%) | 一律(5%または10%) |
| 制度の歴史 | 1905年から(長い歴史) | 2016年から(比較的新しい) |
数字だけ見ると、タイの方が圧倒的に有利に見える。実際その通りだが、問題は「タイに住んでいる日本人が、日本の相続税を免れられるかどうか」だ。これが次のポイントだ。
【最重要】タイへ移住しただけでは日本の相続税は消えない
「タイに移住すれば、日本の相続税は払わなくていい」——この考えは、多くの場合、誤りだ。
日本の相続税は、単に「どこに住んでいるか」だけで決まるわけではない。被相続人(亡くなった人)と相続人(財産を受け取る人)の両方の状況、そして財産の所在地が複合的に絡み合っている。
① 被相続人(亡くなった人)の居住地・国籍
日本に住んでいる人(居住者)が亡くなった場合、相続人がどこに住んでいるかに関わらず、全世界の財産が日本の相続税の課税対象になる。
では日本を出てタイに移住した後に亡くなった場合はどうか。ここに落とし穴がある。
② 日本人の「10年ルール」——出国後もしばらくは追いかけてくる
日本は2017年の税制改正により、いわゆる「10年ルール」を導入した(※制度の詳細は改正の経緯があるため、最新情報を必ずご確認ください)。
一般的には、日本国籍を持つ人が海外へ移住しても、出国から10年以内は日本の相続税が全世界の財産に適用される可能性がある、とされている。
つまり、タイへ移住した翌日から相続税の心配がなくなるわけではない。日本を出た後も、一定期間は日本の課税権が及び続ける可能性がある。
⚠️ 10年ルールについての注意
この「10年」という期間の適用については、被相続人・相続人それぞれの国籍・居住地・資産の種類によって異なります。改正の経緯もあり、適用要件は複雑です。必ず国際税務に精通した税理士にご確認ください。
③ 相続人(財産を受け取る人)の居住地・国籍
相続人が日本に住んでいる場合も要注意だ。
たとえ被相続人がタイに移住していたとしても、日本に住む相続人(子など)が財産を受け取る場合、その相続人の状況次第で日本の相続税が課税される可能性がある。
被相続人だけが海外に住んでいても、相続人が日本の居住者であれば、一定の条件下で日本の相続税が全世界の財産に適用されるケースがある。
④ 日本国内にある資産は、どこに住んでいても課税対象
これは原則として覚えておいてほしい重要なポイントだ。
日本の不動産・日本の金融資産・日本の法人株式などは、被相続人や相続人がどこに住んでいても、日本の相続税の課税対象になるのが基本的な考え方だ。
不動産投資をしていて、日本に物件を複数持っている場合——タイへ移住しても、その物件にかかる相続税は免れない可能性が高い。
⑤ 日本とタイの間に「相続税の租税条約」がない
もう一つ見落とされがちな点がある。
日本は一部の国と相続税に関する租税条約(二重課税防止条約)を結んでいるが、日本とタイの間には相続税分野の租税条約が存在しない(一般的に。最新状況はご確認ください)。
つまり、日本とタイの両国で相続税が発生した場合、理論上は二重課税になるリスクがある。日本側では外国税額控除の制度があるが、完全にカバーできるとは限らない。
📌 まとめ:タイ移住と日本相続税の関係(簡易整理)
| 状況 | 日本の相続税 |
|---|---|
| 日本居住者が日本居住者に相続 | 全世界財産に課税(原則) |
| タイ移住後10年未満で死亡(日本国籍) | 全世界財産に課税される可能性が高い |
| タイ移住後10年以上経過(要件充足) | 日本国内財産のみ課税(可能性あり) |
| 日本の不動産を保有 | 居住地にかかわらず、日本の相続税対象(原則) |
| 相続人が日本居住者 | 受け取る全世界財産が課税対象になる可能性 |
※上記は一般的な整理です。個別の状況・制度改正の詳細は必ず専門家に確認してください。
タイ移住を考える人が確認すべきポイント
タイへの移住を検討している方が、相続税の観点から事前に整理しておくべき項目をまとめた。
✅ 日本国内の資産状況
不動産・株式・預貯金・生命保険など、日本国内にある資産の種類と評価額を把握しておく。これらは移住後も日本の相続税の課税対象になりうる。
✅ 海外(タイ含む)の資産状況
タイの不動産、タイの銀行口座、その他の海外資産の有無と評価。タイに資産があれば、タイの相続税の観点からも整理が必要だ。
✅ 法人の有無
日本または海外に法人を持っている場合、その株式・持分の評価や課税関係が複雑になる。法人を通じた資産管理をしている場合は特に専門家への相談が必須だ。
✅ ビザと居住実態
タイでの長期滞在には適切なビザが必要だ(リタイアメントビザ、タイランドエリートビザなど)。また「実際にタイに住んでいる」という居住実態は、税務上の判断においても重要な要素になる。日本の住民票や生活の拠点についても確認が必要だ。
✅ 相続人の居住地・国籍
自分がタイに移住しても、相続人(子・配偶者など)が日本に住んでいる場合、その側からも日本の相続税が発生する可能性がある。相続人側の状況も込みで考える必要がある。
✅ 移住のタイミングと10年間の計画
10年ルールを踏まえると、移住のタイミングと、その後の10年間をどのように過ごすかが税務上も重要になる。感情的・生活的な判断と税務上の観点を、バランスよく整理することが大切だ。
⚠️ 個別のケースは専門家へ
上記のポイントは一般的な確認項目です。実際の税務処理・対策については、国際税務に詳しい税理士へのご相談を強くおすすめします。特に資産規模が大きい場合や法人を保有している場合は、早い段階での相談が重要です。
私がタイ移住を考えている理由——相続税だけが目的ではない

ここで少し、私自身の話をさせてほしい。
私はいま、タイへの長期移住を真剣に計画している。その理由は、いくつかある。
一つ目は、気候だ。日本の冬は、年を重ねるごとに少しずつ体にこたえるようになってきた。タイの温かい気候のなかで、毎日を過ごすことへの憧れがある。
二つ目は、生活コストと豊かさのバランスだ。タイ、特にチェンマイやバンコク郊外では、日本の都市部と比べて大幅に低いコストで、豊かな生活が送れる。外食が安く、サービスが行き届いており、生活水準を下げることなくコストを下げられる感覚がある。
三つ目は、人との距離感と生活スタイルだ。タイの人々のゆったりとした感覚、街の雰囲気、それでいて便利な都市インフラ——何度か訪れるなかで、「ここなら長く住めるな」という感覚を持てた。
では、相続税はどうか——それも気になっていないと言えば嘘になる。
不動産投資を通じて少しずつ資産を積み上げてきた。その資産をいずれ次の世代に渡すとき、どのような税負担が生じるのかは、早いうちから理解しておきたいと思った。
でも、調べれば調べるほど、「タイへ行けば解決」という話ではないことがわかってきた。10年ルール、相続人の居住地、日本の不動産の扱い——複雑な要素が絡み合っている。
相続税を節約するためにタイへ行く、という発想は、私には合わない。そんな一点だけで人生の拠点を変えることはできない。
大切なのは、人生をどこでどのように過ごすかを選ぶこと。そのなかで、税金についても正しく知っておきたい——それが私のスタンスだ。
まとめ——タイ移住は相続税だけで決めるものではない
最後に、この記事で伝えたかったことを整理したい。
タイの相続税は、日本と比べると確かに「緩やか」だ。1億バーツ(約4〜5億円)を超える分にしか課税されず、税率も5〜10%と低い。配偶者は非課税。制度として、日本より税負担が軽いのは事実だ。
しかし、タイへ移住するだけで日本の相続税が消えるわけではない。被相続人・相続人の国籍・居住地・資産の所在地・移住からの経過年数——これらがすべて絡み合う。日本に不動産を持っていれば、原則として日本の相続税は免れない。
タイ移住を判断するとき、相続税はその一要素に過ぎない。
医療環境は十分か。ビザは取得できるか。家族との距離はどうなるか。日本の資産はどう管理するか。現地での生活は自分に合うか——これらすべてを総合的に判断することが、後悔のない選択につながると思っている。
私はタイへ移住したいから税金を調べているのではありません。
これからの人生をどこで、どのように暮らしたいのか。
その選択肢を増やすために、税金も含めて正しく理解しておきたいと思っています。
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タイ移住を考えている方、海外移住と税金について気になっている方——どんなことでも、ぜひコメントで聞かせてください。同じように考えている方と情報を共有できればと思っています。
※本記事は一般的な情報提供を目的として執筆しています。税制は国内外ともに改正される可能性があります。相続税に関する個別の判断・対策については、国際税務に詳しい税理士・専門家に必ずご相談ください。本記事の情報に基づく判断について、筆者は責任を負いかねます。


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