「退職が怖くないですか?」
そう聞かれたら、怖いと答えます。正直に。
収入の柱が一つなくなる。会社の中で築いてきた人間関係も、これまでとは変わる。長年一緒に仕事をしてきた、尊敬している人たちとも、会う機会は減るだろう。もし事業がうまくいかなかったら。資産だけが減っていったら。このまま会社員を続けた方が、ずっと安心なんじゃないか——そう思う日もあります。
でもこの話をするとき、私はいつも大学時代のことを思い出します。
【目次】
- 「今しかない」と思った瞬間
- 往復航空券だけ買って、あとは何も決めなかった
- 出発前、後悔しかなかった
- 深夜のバンコク、まったく眠れなかった
- 旅が変わった瞬間
- 退職と、あの旅が重なって見える
- 大学の一人旅と、退職の共通点
- 怖くないから踏み出すのではない
- まとめ
「今しかない」と思った瞬間

昔から海外旅行が好きだった。一人で知らない土地を歩いてみたいという気持ちも、ずっとあった。兄が留学していて、「大学生のうちに長く海外へ行った方がいい」とも言っていた。猿岩石の番組を見たり、沢木耕太郎の『深夜特急』を読んで、一人旅への憧れはどんどん大きくなっていた。
ただ、誰かと一緒に行きたいとは思わなかった。一人で行ってみたかったのだ。
大学1年生は、新しい友達ができて、あっという間に過ぎた。夏休みは実家へ帰って免許を取り、気づいたら終わっていた。2年生も同じように流れていった。
そんなある日、先輩から聞いた。3年生になると研究室が始まって、長い旅行は難しくなると。
その瞬間、急に焦った。「今しかない」と思った。
数日後、旅行会社へ行って、バンコク往復の航空券を買った。ホテルも、現地でのバスも、何も予約していない。ただ1か月後にタイへ飛ぶ、ということだけを決めた。
往復航空券だけ買って、あとは何も決めなかった

今思えば、あの「先に航空券を買う」という行動は正解だった。
もし「行こうかな、どうしようかな」と考え続けていたら、きっと行かなかった。チケットを買ったから、もう行くしかなくなった。やめられなくなった。
退職も、たぶん似ている部分がある。「いつか辞めよう」と考えているだけでは、何年経っても同じところにいる。でもそれはまた後で書く。
当時の私は、アンコールワットへ行くことだけを決めていた。タイからカンボジアへの陸路の移動方法も、大まかにしか分かっていなかった。今のようにスマートフォンもない。ガイドブックと少しの現金と、根拠のない自信だけで乗り込んだ。
出発前、後悔しかなかった

出発の日が近づくにつれて、どんどん怖くなっていった。
なんで一人で行くんだろう。なんであの時チケットなんか買ったんだろう。海外へ行った経験は、兄のいたアメリカだけだ。あのときは兄がそこにいた。今回は本当に一人。しかもタイ。英語もほとんど話せない。現地の言葉は一言も分からない。
飛行機の中も、ずっと不安だった。窓の外が暗くなるにつれて、後悔の気持ちが大きくなった。到着したらどうすればいいのか、シミュレーションしながら座っていた。でも考えれば考えるほど、うまいイメージが浮かばなかった。
深夜にスワンナプーム空港に降り立ったとき、何をしていいか分からなかった。とりあえずタクシーに乗って、ガイドブックに書いてあったチャイナタウン近くの安宿へ向かった。
深夜のバンコク、まったく眠れなかった

宿に着いたのは深夜だった。
薄暗いロビー。スタッフは英語で何か話しかけてくるが、聞き取れない。部屋に入ると、壁が薄く、外から叫び声のような音が聞こえてきた。バンコクの夜は騒がしい。しかし問題はそれだけじゃなかった。自分の頭の中が、もっと騒がしかった。
翌日から、カンボジアへ向かうバスに乗るつもりだった。でもどこで乗ればいいのか。チケットはどこで買うのか。国境はどう越えるのか。何ひとつ確認できていなかった。ガイドブックをめくっては閉じ、また開いた。結局、朝まで眠れなかった。
あの夜が、この旅で一番つらかったと思う。
📝 当時の自分へ:あの夜が一番怖かった。でも、朝になったらちゃんと動けた。一夜越えれば変わる。それはあの時も、今も同じだと思っている。
旅が変わった瞬間

翌朝、なんとかバス乗り場へたどり着いた。そこで声をかけてきたのが、同じくアンコールワットへ向かう日本人旅行者だった。
20代の男性で、バックパッカーとして旅慣れていた。「一緒に行きましょうか」と言ってくれた。その一言で、一気に景色が変わった気がした。
カンボジアへ入ってからも、宿のロビーで話しかけてきた外国人旅行者と仲良くなった。国籍も年齢もバラバラな人たちと、同じテーブルで話をした。言葉は片言でも、なんとかなった。
アンコールワットを見たとき、感動というより、静かな驚きがあった。こんな場所が世界にあるのかという感覚。自分がこれまでいかに狭いところにいたかを、じわじわと感じた。
その後もタイに戻り、北部のチェンマイへ行き、現地の市場を歩いた。海外で「外国人」として過ごす時間。日本では絶対に出会えない種類の人たちと話す時間。価値観も、言語も、景色も、全部違う。
帰りたくないと思った。本当に。
でも1か月はあっという間に終わった。帰国の飛行機の中で、「また来よう」と思いながら日本へ戻った。
退職と、あの旅が重なって見える

あれから20年以上が経った。今の私は45歳で、会社員として働きながら、退職について考えている。
不動産投資は続けてきた。資産はある程度積み上がった。でも、退職を決断できていない。怖いからだ。
最近、ふとあの旅を思い出すことがある。
「今しかない」と焦ってチケットを買ったこと。出発前夜に後悔したこと。深夜の安宿でまったく眠れなかったこと。でも朝になったら動けた。声をかけてもらって、旅が変わった。帰りたくないと思うほど、楽しくなった。
退職も、そういうものかもしれない。
今は怖い。飛行機に乗る前と同じように、怖い。でもあのとき、一番怖かったのは飛行機に乗る前と、到着した深夜だけだった。動き始めたら、少しずつ変わっていった。
退職した後も、最初はきっとうまくいかないことがある。思い通りにいかない日もあると思う。でも動き始めると、予想していなかった出会いや景色が現れる気がしている。根拠はない。でも、そう思っている。
一つ違うのは、あの旅は1か月で終わるものだったが、退職はその後の人生ずっと続くということだ。だからこそ慎重に考えてきた。妻にも相談した。数字も整理した。でも最後の一歩は、感情の問題でもある。
その感情を、あの旅が助けてくれている気がする。
大学の一人旅と、退職の共通点
| 項目 | 大学時代のタイ一人旅 | 45歳の今、退職 |
|---|---|---|
| きっかけ | 「3年生になると行けなくなる」という焦り | 「このままでは一生踏み出せない」という焦り |
| 最初にしたこと | 航空券だけ買った(宿・ルートは未定) | 退職の意志を妻に打ち明けた |
| 一番怖かった瞬間 | 出発前夜と、深夜のバンコク到着直後 | 今(決断する前) |
| 準備の状態 | ガイドブック1冊、現金のみ、言語不明 | 不動産収入・資産・事業計画あり。でも不確実性は残る |
| 踏み出した後 | 出会いがあり、景色が変わり、帰りたくなくなった | (まだ踏み出していない。でも、そうなると信じている) |
| 共通するもの | 「一歩踏み出す前が、いつも一番怖い」 | |
怖くないから踏み出すのではない
私はよく、退職について質問される。「勇気がありますね」と言われることもある。
でも、勇気があるわけじゃない。ただ、怖いまま動こうとしているだけだ。
あの旅でも、出発前に「よし、怖くなくなった。行こう」という日は来なかった。ずっと怖いまま、飛行機に乗った。到着しても怖かった。でも朝が来て、動き始めると、少しずつ変わっていった。
人生で「怖くなってから行動する」という順番になったことは、一度もない。いつも怖いまま、先に動いている。怖さが消えるのはいつも後からだ。
退職もそうだと思っている。決断する日まで、きっと怖い。決断した後も、しばらくは怖い。でもそれが普通だと思っている。怖くなくなるのを待っていたら、永遠に動けない。
📌 人生で「最初が怖かった」出来事
- 大学時代のタイへの一人旅
- 初めて不動産を買ったとき
- 退職を妻に打ち明けたとき
- FXをやめて、次の投資を探し始めたとき
- そして今——退職の決断
どれも、踏み出した後に振り返ると「あれで良かった」と思っている。
一つだけ、自分に言い聞かせていることがある。
「一歩踏み出す前が、一番怖い。」
それだけだ。特別なことじゃない。でもこれを思い出すと、少しだけ落ち着く。あの深夜のバンコクの安宿も、朝になったらちゃんと動けた。あの経験が、今も背中を押してくれている気がする。
まとめ
今でも正直、怖いです。
でも人生を振り返ると、「あの時、一歩踏み出して本当に良かった。」そう思う出来事は、必ず最初は怖いものでした。
今回の退職も、数年後に振り返ったとき、「あの時、勇気を出して良かった。」そう思える日が来ることを信じています。
だから私は、また一歩踏み出そうと思います。
怖くないから踏み出すのではなく、怖いけれど、その先にある景色をもう一度見てみたい。それだけです。
📣 あなたにも、そんな瞬間はありましたか?
転職、独立、引越し、結婚——何でも構いません。「一歩踏み出す前が怖かったけれど、踏み出して良かった」という経験があれば、ぜひコメントで聞かせてください。私自身、今そういう場所にいる人間として、とても励みになります。
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※本記事は個人の体験・見解をもとにしています。退職・資産形成の判断はご自身の状況をよく確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。


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