「不動産を何棟も持っているのに、なんで自分の家は買わないの?」——付き合いのある不動産仲介や銀行の担当者から、何度かこの質問を受けたことがあります。
答えは単純で、買う必要がなかったからです。31歳で結婚したとき、私たちは妻の実家に同居することを選びました。以来20年近く、自宅を「所有」することなく生活しています。不動産投資家が自宅を持たない——一見矛盾しているようですが、これは私にとって最も合理的な判断でした。
この記事では、その判断の背景にある数字と、20年間を通じて見えてきたメリットをすべてお伝えします。
【目次】
- 私が選んだ選択:義両親の実家への同居
- 20年のコストを比較する:同居・賃貸・購入
- 差額をS&P500に投資したら?
- 想定外のメリット:子育てのサポート
- 相続時の大きな控除:小規模宅地等の特例
- 住宅ローンなしが不動産投資の「武器」になる
- プライバシーが欲しいときの解決策
- こんな人には同居を考えてほしい
- まとめ
私が選んだ選択:義両親の実家への同居
結婚当時、「夫婦二人のマンションを買うか、借りるか」という選択肢が当然のようにありました。ただ、妻の両親が「一緒に住まないか」と声をかけてくれたことで、私たちは同居という第三の選択をすることになりました。
私が義両親に払っている「家賃」は月8万円。インターネット、水道光熱費はすべて込みでこの金額です。東京圏で家族4人が住める3LDK以上の家を借りれば月18〜22万円、購入すれば月13〜15万円のローン返済が発生することを考えると、この8万円という金額は、相当に抑えられています。
確かに、夫婦だけの「プライベートな空間」は手に入りません。それが同居の唯一の代償です。ただ、その我慢と引き換えに得てきたものを数字で整理すると、この選択は正しかったと確信しています。
20年のコストを比較する:同居・賃貸・購入
まず住居費を20年間で比較してみます。東京圏で家族が住める住居を想定した試算です。
| 同居(義実家) | 賃貸(3LDK相場) | 購入(4,500万円ローン) | |
|---|---|---|---|
| 月々の支出 | 8万円 (光熱費・ネット込み) | 20万円 (管理費・駐車場含む) | 13.8万円 (元利均等・金利1.5%・35年) |
| 頭金・初期費用 | なし | 約60万円 (敷礼金・仲介) | 約300万円 (諸経費込み) |
| 固定資産税・修繕費 | なし | なし | 年80万円 (固定資産税+修繕積立) |
| 20年間の合計支出 | 約1,920万円 | 約4,800万円 | 約5,207万円 |
| 同居との差額 | — | +2,880万円 | +3,287万円 |
20年間で賃貸との差額は約2,880万円、購入との差額は実に約3,287万円になります。
⚠️ 購入は「資産になるから得」という考え方の注意点
「賃貸は捨て金。購入すれば資産が残る」とよく言われます。確かに購入すれば20〜30年後に不動産が残ります。ただし、建物の価値は基本的に経年劣化で下がり、土地値のみが残ります。東京圏なら土地値が維持される可能性もありますが、固定資産税・修繕費・リフォーム費などのランニングコストは確実に発生します。「購入=必ず得」という前提には注意が必要です。
差額をS&P500に投資したら?
同居を選ばず賃貸を選んでいた場合との月12万円の差額。もしこれをS&P500にドルコスト平均法で積み立て続けていたとしたら、20年後にどうなるかを試算しました。
| シナリオ | 元本(20年) | 最終資産額 | 運用益 |
|---|---|---|---|
| 年利7%(保守的) | 2,880万円 | 約6,090万円 | 約3,210万円 |
| 年利10%(長期平均) | 2,880万円 | 約8,619万円 | 約5,739万円 |
差額の月12万円を投資に回していた場合、元本2,880万円が最大約8,600万円になる試算です。もちろん私はこの差額をすべてS&P500に回してきたわけではなく、不動産投資の頭金や元手として活用してきました。ただ、「住居費を抑えることで生まれた余力が、資産形成の原資になった」という構造は同じです。
📌 住居費は「最大の固定費」
FIREや資産形成を目指すうえで、住居費は生活費の中で最も削減インパクトが大きい項目です。月12万円の差額は年間144万円。この金額を20年間運用するか消費するかで、資産形成の速度がまったく変わってきます。
想定外のメリット:子育てのサポート
コスト面は計算しやすいですが、同居で得た一番大きなものは数字にできないかもしれません。それが子育てのサポートです。
子どもが小さいころ、共働きで帰りが遅くなるとき、急に熱を出したとき、学校行事で両親が揃えないとき——義父母がすぐそこにいてくれることで、どれだけ助かったかわかりません。保育所のお迎え、晩ごはんの準備、学校の送り迎え。これを外注しようとすれば、ベビーシッターや保育施設の費用がかなりの額になります。
同居とはつまり、「住居費を払いながら、保育・家事サポートも付いてくる」という構造です。お金に換算しにくいですが、これは相当大きな価値でした。
相続時の大きな控除:小規模宅地等の特例
同居のメリットとして意外に見落とされがちなのが、相続税における「小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)」です。
これは、被相続人(亡くなった義父母)と同居していた相続人(妻)が土地を引き継いだ場合、その土地の評価額を330㎡まで80%減額できるという制度です。
📌 小規模宅地等の特例 具体例
仮に義実家の土地評価額が8,000万円の場合:
・特例なし:8,000万円が相続税の課税対象
・特例あり(80%減額):8,000万円 → 1,600万円に圧縮
・差額:6,400万円が課税対象から外れる
相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を合わせると、相続税がほぼゼロになるケースも少なくありません。
適用の主な要件は以下の通りです。
- 被相続人(義父母)と同居していた親族が土地を相続すること
- 相続税の申告期限まで引き続きその家に居住・所有すること
- 被相続人が居住の用に供していた宅地等であること
⚠️ 「家なき子特例」との違いに注意
別居している子が相続する「家なき子特例」もありますが、要件が厳しく2018年の改正で適用が難しくなりました。同居している親族が相続する場合は条件が明確で確実性が高いです。適用要件は個別の状況で変わるため、相続発生時には税理士への相談をおすすめします。
同居を選んだ20年間が、将来の相続でも大きく効いてくることになります。これは同居を始めた時点では意識していなかったメリットですが、今では「長期的に正解だった」と感じています。
住宅ローンなしが不動産投資の「武器」になる
不動産投資家として感じる実際的なメリットがもう一つあります。それが住宅ローンを持っていないことです。
銀行が投資用不動産への融資を検討する際、審査の軸の一つが「既存の月々の返済額」です。住宅ローンがある人は、毎月13〜15万円程度の返済負担を抱えています。この返済負担は、投資ローンの審査において「収入に対してどれだけ余力があるか」を判断する際のマイナス要因になります。
一方で住宅ローンがない場合、同じ収入でも「月々の返済余力が大きい」と評価され、融資枠が広がりやすくなります。私自身、担当者から「住宅ローンがないのはプラスに見ています」と言われたことが実際にあります。不動産投資をスケールアップしていく局面では、この差は積み重なって大きくなっていきます。
| 住宅ローンあり(月13.8万) | 住宅ローンなし(同居) | |
|---|---|---|
| 月々の既存返済 | 13.8万円 | 0円 |
| 銀行から見た返済余力 | 少ない | 大きい |
| 投資用ローンへの影響 | 融資枠が圧迫される | 融資枠が確保しやすい |
| 銀行の心証 | 負債が多い | 健全な財務状況 |
不動産投資と自宅購入を同時に進めることは、融資枠という面では互いに競合します。どちらを優先するかは人それぞれですが、私は投資不動産に集中するために自宅を持たないという選択をしました。
プライバシーが欲しいときの解決策
同居の唯一のデメリットは、プライベートな空間が限られることです。これは正直に認めます。同居20年のうち、「自分たちだけの空間が欲しい」と思ったことが何度もありました。
ただ、これは別の方法で補える部分でもあります。私が時々考えてきたのは、近所に小さなアパートを一室借りるという選択肢です。月5〜6万円あれば、週末だけ使える「一人の時間の場所」を確保できます。月8万円の同居費に月5万円を足しても月13万円。それでも賃貸で家族全員が住む場合(月20万円)より安くなります。
完全に「自分の空間」が欲しければ、こうした組み合わせも現実的な選択肢です。「同居か、独立か」の二択ではなく、「同居+個人のサテライトスペース」という中間解があることを知っておいてほしいと思います。
こんな人には同居を考えてほしい
同居という選択肢は、万人向けではありません。ただ、以下のような状況にある人には、真剣に検討する価値があると思っています。
📌 同居が選択肢になりやすいケース
・両親(または義両親)から同居の打診がある:チャンスが来たときに検討しない手はない。断るのはいつでもできる
・子どもが小さく、共働きでサポートが必要:保育コストの削減だけでなく、心理的な安心感も大きい
・不動産投資を始めたい・拡大したい:住宅ローンなしの状態は融資審査で有利に働く
・子どもが独立したタイミングや、両親の健康が心配になってきた時期:途中から同居を始めることも十分に現実的。むしろそのタイミングの方が双方にメリットが大きい
「最初から同居する」だけが選択肢ではありません。子どもが家を出た後、両親が一人になったタイミング、健康面で不安が出てきたタイミング——こういった節目に同居を選ぶことで、コスト・相続・介護の三つを同時に解決できる可能性があります。
「少しの我慢で、大きなメリット」というのが、私が20年間同居を続けてきた実感です。
まとめ
- 義両親との同居を選ぶことで、月8万円(光熱費込み)という低コストで家族の住居を確保してきた
- 20年間の住居費比較:同居1,920万円 vs 賃貸4,800万円(差額2,880万円)、購入5,207万円(差額3,287万円)
- この差額をS&P500に投資すると、20年後には最大約8,600万円になる試算
- 子どもが幼い時期に義両親のサポートを受けられたことは、コスト以上の価値があった
- 相続時に小規模宅地等の特例(80%評価減)が使える可能性があり、相続税が大きく圧縮される
- 住宅ローンなしの状態は、投資用不動産の融資審査で有利に働く
- プライバシーが欲しい場合は「近所に小さなアパートを借りる」という中間解もある
不動産投資家が自宅を買わないのは矛盾ではなく、資産形成の一つの戦略です。「普通の選択」が必ずしも最適ではないという視点を、同居20年から学びました。
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※本記事のコスト試算は一般的な条件をもとにした参考値です。住宅ローンの返済額は金利・期間・物件価格によって異なります。S&P500シミュレーションは過去の実績に基づく試算であり、将来の成果を保証するものではありません。小規模宅地等の特例の適用要件は個別の状況により異なります。相続・税務に関しては必ず専門家(税理士・司法書士)へご相談ください。


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